大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)48号 判決 1964年8月25日
控訴人(附帯被控訴人) 国友康彦
被控訴人(附帯控訴人) 千敬達
主文
原判決を左のとおり変更する。
一、控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し原判決末尾目録記載の建物を明渡し、(1) 昭和二六年一一月一六日から昭和三六年八月三一日まで一ケ月金五、〇〇〇円、(2) 同年九月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金八、二一二円、(3) 昭和三七年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、一二七円、(4) 昭和三八年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、二六〇円、(5) 昭和三九年一月一日から右明渡済に至るまで一ケ月金九、八一九円の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
三、本判決は被控訴人(附帯控訴人)において建物明渡の部分について金八万円、金員支払の部分について金一六万円の担保を供するときはそれぞれ仮に執行することができる。
事実
一、控訴人(附帯被控訴人以下単に控訴人という)代理人は控訴につき、「原判決を取消す。被控訴人(附帯控訴人以下単に被控訴人という)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴につき、「本件控訴は棄却する。控訴費用控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴につき、原判決を変更して主文一、二記載の判決を求める旨申立てた。
当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用、認否は、左記に附加する外、原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
被控訴代理人は、
一、控訴人は本件家屋を訴外多田美津子がその所有権を取得した当時から不法に占拠していたので、右訴外人は控訴人に対し昭和二六年一一月一日から昭和三六年八月一八日まで一ケ月金五、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金債権を有していた。そして右訴外人は昭和三六年八月一〇日被控訴人に対し右損害金債権を譲渡し同月二九日到達の書面で控訴人に対しその旨通知した。
したがつて被控訴人は控訴人に対し右譲受損害金債権をも有するので、本件家屋明渡しと共に昭和二六年一一月一六日から昭和三六年八月三一日まで一ケ月金五、〇〇〇円、同年九月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金八、二一二円、昭和三七年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、一二七円、昭和三八年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、二六〇円、昭和三九年一月一日から明渡済に至るまで一ケ月金九、八一九円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。
二、控訴人主張の仮処分があつたことは認める。しかしながら控訴人と訴外多田間の右仮処分の本案訴訟は昭和三六年五月一八日当裁判所において訴外多田勝訴の判決があり、控訴人の上告も昭和三八年秋棄却され本件家屋並びに敷地の所有権は訴外多田に移転したことが確定した。したがつて右仮処分は溯及して失効した。
と述べ、
控訴代理人は、
被控訴人が本件家屋の所有者であること、訴外多田美津子が前所有者であることは否認する。すなわち、控訴人は訴外原某に対し金融のため委任状、印鑑証明書、権利証書を預けたところ不法にも本件家屋並びに敷地を訴外多田美津子所有名義にしたので、当時控訴人は右訴外原並びに被控訴人を告訴し、右不動産は控訴人に返還する旨約された。ところがその後訴外多田から本件家屋明渡の請求があつたので右訴外人を相手どり大阪地方裁判所堺支部に仮処分を申請し昭和三〇年二月中本件家屋並びに敷地につき処分禁止の仮処分命令がありその旨の登記もなされ仮処分命令は執行中である。控訴人は右処分禁止の登記後訴外多田から所有権移転登記を受けたものであるから、所有権の移転があつたとしても、取得したことを仮処分債権者たる控訴人に主張することはできない。
と述べた。
証拠<省略>
理由
本件家屋が控訴人の所有に属していたこと、その後登記簿上訴外多田美津子の所有名義となつたこと、控訴人が右訴外多田を相手方として昭和三〇年二月中本件家屋並びに土地につき処分禁止の仮処分命令を得その旨の登記をなしたこと、被控訴人が右処分禁止の登記中に訴外多田から本件家屋の所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いなく、控訴人が本件家屋を占有していることは控訴人の明かに争わないところである。そして成立に争いない甲第一号証によると右所有権移転登記がなされた日時は訴外多田のためには昭和二六年一一月一六日、被控訴人のためには昭和三六年八月一九日であることが明かである。
しかして成立に争いない乙第二号証甲第三号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるのでその成立が推定される甲第四号証(上告審判決正本)によると、控訴人は昭和二六年一一月一日頃訴外原滋典が控訴人の無権代理人として被控訴人との間に締結した本件家屋並びに敷地についての代物弁済契約を追認すると共に被控訴人の代物弁済予約完結を受諾する意思表示をしたので本件家屋並びに敷地の所有権は控訴人から被控訴人に移転し次いでその内縁の妻である訴外多田美津子に移転したこと、したがつて右仮処分の被保全権利は前記認定事実によると所有権と考えられるので右仮処分の本案訴訟であると認められる、控訴人の訴外多田に対する本件家屋並びに敷地についての所有権に基く所有権移転登記抹消登記請求は控訴人が所有権を喪失したことを理由に棄却され右判決が確定したことが認められる。
又(1) 前記のように登記簿上本件家屋の所有権が訴外多田から被控訴人に移転した旨登記されている事実並びに(2) 前認定の訴外多田が被控訴人の内縁の妻である事実及び乙第二号証及び弁論の全趣旨を総合して推認される、被控訴人は第三国人であつたため自ら取得するときは登記手続が煩鎖となることを恐れ訴外多田のため本件家屋並びに敷地の所有権を取得した事実によるときは、本件家屋の所有権は訴外多田から被控訴人に移転したこと、右移転の事実に基いてその旨の登記がなされたことを認定することができる。
以上の認定を左右する証拠はない。
しかして処分禁止の仮処分債権者が本案訴訟において実体的理由により敗訴し右判決が確定したときは、仮処分命令は本案訴訟に対する付随的性格よりして取消しを俟つまでもなくその効力を失い右処分禁止中に権利を取得した第三者も取得時から右権利を有効に主張することができると解するを相当とするから、被控訴人は本件家屋の所有権をその移転登記を経由した昭和三六年八月一九日以降控訴人に対し主張することができるものといわねばならない。
そして控訴人は本件家屋につき前記否定せられた所有権以外占有の権原について主張立証しないから、控訴人は所有者である被控訴人に対し本件家屋を明渡すべき義務があると共に訴外多田並びに被控訴人に対し賃料相当の損害金を支払うべき義務があるところ、当審における鑑定の結果によると被控訴人が賃料相当の損害金として主張する金員は相当であり、又前記認定の所有権移転の経緯に照らし真正に成立したと認められる甲第二号証の一(ただし郵便官署作成部分の成立については争いがない)成立に争いない同号証の二によると、訴外多田は控訴人に対し有する昭和二六年一一月一日以降昭和三六年八月一八日までの賃料相当の損害金債権を被控訴人に譲渡し昭和三七年八月下旬控訴人に対しその旨の通知をしたことが認められるので控訴人は被控訴人に対し被控訴人主張の(1) 昭和二六年一一月一六日から昭和三六年八月三一日まで一ケ月金五、〇〇〇円、(2) 同年九月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金八、二一二円、(3) 昭和三七年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、一二七円、(4) 昭和三八年一月一日から同年一二月三一日まで一ケ月金九、二六〇円、(5) 昭和三九年一月一日から右明渡済に至るまで一ケ月金九、八一九円の割合による賃料相当の損害金を支払うべき義務があり、被控訴人の請求はすべて正当として認容すべきである。
よつて原判決を変更し、民事訴訟法第九六条第九二条但書第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(判決官 加納実 村瀬泰三 安井章)